脳ミソから「知」をひねり出すコラム『のうぢる』:No.4「敵対者」は「物語の理解」を握るカギ?



(コラムの元記事:『サムライ8 八丸伝』第9話【ヒロインは物語にどう関わっていくのか?】

のうぢるコラム:No.4「敵対者」は「物語の理解」を握るカギ?

それにまあ、これはただの冗談だが、証文に記されたとおりのこれこれの日にこれこれの場所でこれこれの金額をお返し願えない場合は、その違約金がわりに、あんたのからだの肉をきっかり1ポンドいただく、ってのはどうだろう。それも、おれの好きな場所から切りとっていい、ことにしていただきたいんだが。

(『ヴェニスの商人』ウィリアム・シェイクスピア/訳:小田島雄志)

 

「敵対者」は、われわれの身近に潜んでいる。

・きっとあなたの身の回りにも、あなたの「敵」がいるはずだ。

・「敵」は、あなたのことが嫌いである。それゆえあなたの不幸を心から祝福する

 

・そしてあなたも、多かれ少なかれ、そんな「敵対者」に敵対心を抱いている。

・当然だ。こちらに敵意を向ける相手に友好的な感情を持つことはきわめて難しいのだから。

・敵対者と敵対する自分――つまりこの時点で、両者のあいだには、明確な「闘争関係」が成立してしまう。

 

・ほんとうは争いなんて望んでいないのに……だけど、自分に敵意を向けてくる以上は、立ち向かわなければならない

・不思議なもので、世の中には、わざわざ敵をつくるような生き方をする人がいる。できればそんな人とは関わりたくないけれど、否が応でも関わらなければならないときがある。

・それが世知辛いところでもあるし、「人生の皮肉」ともいえる。

・自分のことを嫌いな人間がいるという事実。敵対意識を自分に向けている他者の存在――哲学者サルトル「地獄とは他人である」と言ったが、なかなかどうして的を射ている。

 

・しかしその一方で、現実世界から虚構の世界へと視点を移してみると、物語には「敵対者」の存在が必要不可欠と言える。

・物語で描かれる「敵対者」もまた、現実世界と同様に、主人公の平穏や安全を脅かすはた迷惑な厄介者だ。彼らは主人公を「戦い」の渦中へと無理やり引きずりこむ。

・ところが、物語というメタ視点で「敵対者」を捉え直すと、興味深いことがいろいろとみえてくる。

 

・言うなれば「敵対者」は、主人公の秩序(平穏=平和)を侵す「侵入者(インベーダー)」なのである。

・人間は動物の本能として、自分のテリトリーに土足で踏み込む”侵入者”を不愉快に思う。

・それゆえ「敵対者」という存在は、たとえ虚構のフィクションの世界であっても、現実世界と同様に、不愉快な「侵入者」として観客の心に響く

・だから、そんな不埒(ふらち)な輩を追い払おうとする主人公の動機に納得や共感を示すこともできる。

 

・つまり「敵対者(侵入者)」は、時代や場所を問わず、万人に理解と共感を与えられるような普遍的な性質が備わっているのである。

・こう言い換えることもできる。すなわち、「敵対者(侵入者)を知るということは、物語そのものを理解することに直結する」、と。

 

・だとするなら、「この物語ってどんな話なの?」という観客の疑問のおよそ8割は、じつは「敵対者の説明」が握っていることになる。

・「この物語ってどんな話なの?」という問いには、「この物語にはこんな悪いやつらがいる」と答えてあげるだけで、質問者はほぼ完ぺきに状況を掴むことができるわけである。

 

・しばしば脚本の世界では、「”敵対者”をしっかりと描かないとストーリーにメリハリが無くなってしまう」と言われる。

・わたしの批評仲間たちも、口癖のように「で、この作品で悪いやつは誰なんだ?」と訊ねてくる。

・じつはこの理由の背景には、いま論じたように、「敵対者=物語の理解」という定式があるからなのだ。

 

・みなさんも、なにか作品をつくるときには、その物語にどんな「敵」がいてなにを目的に主人公たちの秩序(平穏)を脅かそうとしているのかをしっかり定めるといいだろう。

・そうすれば、必然的に、主人公の在り方も決まってくる

主人公よりもまえに、まずは「敵対者」(悪役)を決める――創作には、ときに発想の転換が必要なのである。

 

(おわり)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2