【漫画批評】『ne0; lation(ネオレイション)』第13話【ブギー編に学ぶ物語の「均衡」理論】

ネオレイション 感想 ネタバレ 第13話 面白い 面白くない レビュー 批評



第13話「悪の生きる道」

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レビュー:70

原作:平尾友希

漫画:依田端稀

所収:週刊少年ジャンプ/2019/第16

【ネオレイション批評記事まとめ】

 

オモシロポイント①峠を取り戻してハッピーエンドじゃない!ター坊が後輩に伝える戒めとは!?

 

ついにブギーが敗れ、約束どおり賭けレースを今後一切おこなわないことになりました。

つまり、これまで実質的にブギーによって仕切られていた峠が、地元の走り屋たちに明け渡されたというわけです。

ようやく平穏が訪れ、これで走り屋たちは、また以前のように峠を楽しむことができる――ふつうなら、ここで一件落着大団円となるわけですが、そのさなかに、今回のレースの立役者であるター坊が、後輩たちにこう忠告します。

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かつて走り屋だったター坊。

人様の迷惑なんてまったく考えずに「いまだけ楽しければいい」と思っていた当時の自分が、いま目の前にいる後輩たちに重なってみえたのでしょう。

あたりまえですが、いわゆる”走り屋”というのは、しょせん公道で危険運転をしているだけです。

 

だからこそター坊は、走り屋が他人様だけでなく、自分の将来をも危険にさらすことなのだと説得します。

とてもよい演出です。

峠を取り戻して「よかったね」で終わるのではなく、走り屋行為そのものを「大人」として問いただすター坊の姿勢は、このお話を読んでいる読者も、なにかひとつ、教訓じみたものを学ぶことができます。

 

個人的に、これはじつに少年漫画らしい展開ではないかと思います。

 

オモシロポイント②ブギー編はじつに理論通りの展開だった!?トドロフの物語理論から学ぶ「均衡」概念!

 

ブギー編がはじまるキッカケ、物語の端緒は、峠を引退したター坊のもとに、現役で走り屋をしている後輩に相談をされたことでした。

このとき、ター坊と後輩は、ブギーという敵のために結束します。つまり、向いている方向が同じなのです。

しかし、後輩の期待を背負ったター坊が勝利すると、次にター坊の視点は後輩へと向きます

 

そうして最後には、先述した通り、この峠での走り屋行そのものを戒め、今後は改めるようにと諭すことになります。

ター坊は、せっかくブギーから取り戻したこの峠を、実質的に否定するように働きかけているわけです。

つまり最終的には、走り屋たちがこの”危険な遊び”をやめて、違う日常へと向かっていくように導こうとしているのです。

 

この構造、なんてことのないように思えますが、じつはきわめて重要な物語の方法論にのっとっているのです。

 

このブギー編の”骨組み”は、基本的に「失ったものを取り戻す」形式をとっています。

ここで「失ったものを取り戻す」というのは、「物語の目的」にあたります。

今回でいえば、取り戻す対象は「峠」ですよね。これは転じて、「走り屋たちの日常」を意味していることがおわかりいただけるでしょう。

 

失ったものを取り戻す――これはよく知られた典型的な物語の形式のひとつです。

たとえば「桃太郎」「スターウォーズ」がそれに該当するでしょう。

このふたつの物語で主人公は、「悪いやつらに乱された平和を取り戻すため」に戦います。

 

そう、基本的に主人公たちが取り戻すものは、日常という名の平穏(平和)なのです。

平穏――それすなわち、過不足なく、すべてが釣り合っている状態を意味します。

創作理論では、しばしばこれを「均衡(equilibrium)」と呼びます。

 

ここでポイントなのは、「失ったものを取り戻す」形式をとる物語が、最終的には「新たな平穏」つまり「新しい均衡(new equilibrium)」へと向かうということ。

「桃太郎」はシンプルすぎて該当しないかもしれませんが、実際に「スターウォーズ」では、シスが死に、ベイダー卿が敗北したあと、銀河系には新しい秩序が訪れますよね。

しかもそれだけではなく、ダース・ベイダーが実の父であることを知った主人公のルークの内面世界もまた、ある意味で、新しい秩序(均衡)がもたらされているといえます。

 

【かつての均衡→物語→新しい均衡】

この定式は、ツヴェタン・トドロフ( Tzvetan Todorov 1939-2017)の物語理論(narrative theory)と呼ばれるものです。

 

さて、これをふまえたうえでブギー編をみてみると、どうでしょうか。

今回のエピソードにおいて「峠」は、ター坊の後輩たちにとっての「日常(平穏=均衡)」を象徴するものであり、同時にまた、「失われた日常=取り戻すべき日常)」をも意味していました。

そして、「峠の過去」を象徴する現役引退した古参のター坊が、レースで勝利して、「峠の平穏(均衡)」を取り戻します。

 

しかしター坊は、そこで終わることなく、走り屋行為の意義を問い直すことで、後輩たちの「日常」を、より新しい段階へと導こうとしました。

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おそらく、伝説の走り屋ター坊の説教は、しかと後輩たちの心に届いたようなので、「かつての均衡→物語→新しい均衡」が成立しているといえるでしょう。

 

このような物語の形式は、言葉にしてみると無味乾燥のように思えますが、しかし面白さを演出するうえではとても欠かせない理解なのです。

偶然かもしれませんが、少なくとも今回、ブギー編では見事に理論通りに物語が展開されていたと評することができるでしょう。

 

まとめ

 

・「大人」として後輩を戒めるター坊から、読者はなにかしらの教訓と戒めを得ることができる

・物語の王道パターンのひとつは、「かつての均衡→物語→新しい均衡」(by ツヴェタン・トドロフ)

 

(第14話へ続く……)

 

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石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2