【実話怪談】札幌怪奇譚【第10話:異形の手】



はじめに

【エピソード一覧リンク】

ここで取り扱う怪談は、オリジナル創作ではなく、あくまでも「実話」であることを前提としています。

「実話」というのは、語る本人が「実話だ」と主張する限りにおいてこれを定義することとします。

また、『札幌怪奇譚』は、読みやすさを追求するため、「実話」に基づきながら、著者によって文体・構成・演出の編集が加えられておりますのであしからず。

 

第10話「異形の手」

(体験者Mさん フリーター 女性 22歳)

(Mさんが体験した別の怖い話はこちら→「白昼の悪夢」)

 

N区のアパートにいた頃の話です。当時、高校生でした。

ある日、急に目が醒めてしまったわたしは、それからなかなか寝付くことができずに困っていました。まだ時間は深夜2時頃だったと思います。

次の日は学校があるし、さっさと眠りに入るために、枕の位置や体勢を変えてみては悪戦苦闘していました。けれど、一向に寝れませんでした。

 

眠気はしっかりあったんです。そのはずなのに……。

おかしいなと思いながら、わたしはごろりと転がって天井向きの体勢になりました。

するとその途端、キーンという耳鳴りとともに、身体が動かなってしまいした。

 

金縛りというやつです。

 

まあ、金縛り自体は正直慣れっこなので、「ああ、めんどくさいなあ」と思うくらいでした。

目だけは動かせましたが、わたしは目をつむりました。どうせならこのまま眠ってしまおうという肚でした。

 

……しかし、そう甘くはありませんでした。

急に、部屋の空気が変わったんです。自分の頭の方角に誰かの気配を感じました。それだけではありません。ものすごい視線がびんびんと伝わってきます。額のほうがこそばゆくなる感覚っていうんですかね。人にじーっと見つめられると、額のあたりがくすぐったくなりませんか? まさにあんな感じなんです。

(うわ~、こっちめっちゃ見てるよ……さっさとどこか行ってくれないかな……)

 

するとその”気配”はやがて移動をはじめました。

しかしドアのほうではありませんでした。部屋のまわりをぐるぐる歩き回っているのです。

 

(頼むからはやくどこか行って……)

そう思っていると、頬になにかが触れるこそばゆい感触がありました。

(あれ、なんだろう?)

気になったわたしは、恐る恐る、そっと目を開けてみました。

 

そこには、布団の上からじっとわたしの顔を見下ろす髪の長い女がいました。

頬に触れていたのは、この髪だったのです。

女の顔は、黒焦げになったかのように真っ黒で、表情はなにもわかりませんでした。

 

これは普通のオバケじゃない……全身が粟立ち、心臓の鼓動が早く鳴り出しました。

というのも、この女の腕が異様なまでに太く、長かったからです。

まさに”妖怪”といった感じでした。

 

金縛りに陥っているわたしは、目をぎゅっと閉じ、この化け物がいなくなるのをただ願うしかありませんでした。

どれほど時間が経ったでしょうか。

やがて気配がスッと消えていき、わたしは金縛りから解放されました。

 

気づかないうちに、びしょりと汗をかいていました。水をかぶったように、首回りがすごいことになっていました。

ともあれ、これでようやく安心です。

あの腕の大きな化け物は、どこにいったのだろう? ふと頭をよぎりましたが、考えても仕方ないので、わたしは壁に背中を向ける形で体勢を変えました。すっかりクタクタで、このまま寝てしまうつもりでした。

 

と、そのときです。

わたしは背中を誰かに「掴まれ」ました。

この感覚をどう伝えればいいか悩みますが、自分の”中身”というか”魂”(?)をグッと掴まれる感覚です。

 

そして一瞬にして、わたしの「視界」にわたしの「背中」が映りました。

つまりわたしはいま、壁に引き込まれそうになっていたのです。

(えっ?)

 

考える間もなく、わたしの「視界」は、そのまま平行スライドするようにして、カラーボックスの内側にまで引き込まれてしまいました。

わたしが背中を向けている壁側には、半透明のカラーボックスが置いてあったのです。

 

そのままいけば、わたしはそのままカラーボックスをこえて、ほんとうに壁のなかにまで引きずり込まれたかもしれません。

しかしけっきょく、すぐに背中を掴んでいる感覚が離れ、「視界」はグンと自分の体に戻っていきました。

 

そのあとすぐ、わたしは気を失うように眠っていました。

 

翌朝目を覚ますとわたしは、まあ、ありがちですが、昨晩の出来事は夢だったのではないかとふと思いました。

異様に腕の長い女の化け物、壁に引きずりこまれそうになった体験……現実感がありませんでした。

 

けれど、もしかしたらあれはほんとうにあったことなのかもしれないと思うようになりました。

なぜなら、わたしはしばらくの間、自分の体の中心が少し横にずれている感覚をもっていたからです。

 

家のリビングを歩いているだけでも、なんてことのない障害物をうまく避けられなくなっていたんです。

例えば、テーブルの前を横切るつもりだったのに、テーブルの角に腰をぶつけてしまったり、まっすぐ歩いているつもりなのに、左側に体が逸れていったり……。

この奇妙な感覚は、半年以上続きました。

 

あの女の手……なぜあんなに異様に大きいのか。考えただけでも心底ゾッとします。

 

 

(第11話に続く……)

 



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2