【実話怪談】札幌怪奇譚【第8話:白昼の悪夢】



はじめに

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ここで取り扱う怪談は、オリジナル創作ではなく、あくまでも「実話」であることを前提としています。

「実話」というのは、語る本人が「実話だ」と主張する限りにおいてこれを定義することとします。

また、『札幌怪奇譚』は、読みやすさを追求するため、「実話」に基づきながら、著者によって文体・構成・演出の編集が加えられておりますのであしからず。

 

第8話:白昼の悪夢

(体験者Mさん フリーター 女性 22歳)

 

自分で言うのもなんですが、わたしはいわゆる霊感が強いタイプで、これまでいろんな体験をしてきました。

じつはわたしだけではなく、母や祖母も”そっち”系なんですよね。

これが血筋ってやつなのでしょうか?

 

どちらせによ、自慢に思ったことはいちどもありません。

べつにオバケなんて見たくもないし、見えたところでロクなことにならないし……。

 

わたしはふだん、自分からすすんで誰かに体験談を話すことはありませんが、「怖い話ある?」って聞かれれば、そりゃあやっぱり、数えきれないほどありますね。

大なり小なり、まあいろいろとです。

わざわざ誰かに話して聞かせる必要もとくにないので、いつも自分の胸にしまっておいてあるのですが……。

 

でも、オバケに慣れっこのわたしが死ぬほどビビった体験はいくつかあります。

それらは、例えば「誰もいない音楽室からピアノの音がする」とか「バックミラーに血みどろの女性が映っている」といった類の心霊体験とはレベルが違うんです。

わたしが「これはシャレにならん!」と思った体験のなかで出会ってしまったオバケは、たいていの場合、「邪悪さ」や「悪意」をもっていたのです。つまり、人間に害を及ぼそうとする明確な意志があるのです。この手のオバケは、わたしからすれば、もはや「幽霊」というよりは「妖怪」。漫画の『ぬ~べ~』に登場するようなモノノケ的な何かなのです。

 

一時期、N区のアパートに住んでいたことがあります。十代の頃です。

ある日の昼下がり、わたしはシャワーを浴び終えると、半裸のままでリビングに向かいました。家には母しかいなかったので、まあ問題はとくにありませんでした。

 

そのとき母はソファでうたた寝をしていました。

しかし悪い夢をみているのか、ひどくうなされていました。大汗をかき、もがくように苦しんでいたので、わたしは困惑しました。

どうしよう、起こしてあげたほうがいいのかな――わたしがそう思っていたときでした。

 

ふと、キッチンのほうに人の気配を感じました。

キッチンは、母の向かい側に位置しており、リビングとキッチンがスダレで区切られている状態になっているのですが、気配のするそちらに目をやりますと、なんとスダレの下から、長い足が二本のぞいていました。

 

(誰、この人……?)

わたしは我が目を疑いました。

スダレで上半身が隠れているので顔はわかりませんでしたが、この状況を理解できず、その場で声も出せず固まってしまいました。

 

しかし、スダレに隠れている相手が人ではないことは、直感でわかりました。

足の長さが尋常ではないからです。

スダレはせいぜい、身長160センチのわたしの顔が隠れる程度しか丈がありません。

にもかかわらず、いまスダレから見えるのは、やけにボロボロの真っ白いズボン(イメージはオ〇ム信者の衣服)に包まれた素足だけです。

 

そう、股下が150センチ以上もある足が普通なはずがないのです。

 

うなされる母と、その向かいに立ち尽くす謎の足。

母が苦しんでいる原因が、このオバケであることは明かでした。

(こりゃどえらいもんと遭遇しちゃったな……)

 

すっかりビビッてしまい、わたしも半裸のまま立ち尽くしてしまいました。

 

しかし、そのときでした。

 

とつぜんスダレから手が伸びてきた手が壁をつかみ、身長190センチをゆうに超えた、スキンヘッドで痩せ型の大男がズズズッとリビングに顔をのぞかせました。

そしてその男は、わたしに一瞥もくれないまま、そのままゆっくりと歩みはじめ、母に近づいていこうとしていました。

 

(お母さんが殺されちゃう!)

 

なぜそう思ったのかはわかりません。

パニックになっていたせいもあるのでしょうが、白装束に身を包んだあの大男が、母に害を与えようとしていることを本能的に察したのは事実です。

 

「お母さん!!」

わたしは咄嗟に大声で叫ぶと、半泣きになりながら、大男に目もくれず、母を叩き起こしました。

 

「お母さん!起きて!お母さん!」

わたしの呼びかけが届いたのか、母は無事、目を醒ましてくれました。

わたしは振り向くと、そこにはもう、あの大男は姿を消していました。

 

母は、半裸で鬼気迫るわたしの顔をみて、いったい何事かとたずねました。

わたしはホッとしながら、母がうなされていたことを教えてあげました。

ただし、大男の話はしませんでした。

 

すると母は、うたた寝の最中、ずっと「怖い夢」をみていたんだとわたしに言いました。

その内容というのは、白装束を身にまとった、手足の長い大男に追われる夢だったというのです。

 

わたしはゾッとしました。

いったい、あの大男は何者で、母をどうするつもりだったのでしょう?

 

ただひとつわかるのは、大男が、母に対して「悪意」があったということ。

それだけは本能的に理解できるのです。

 

 

(第9話に続く……)



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ABOUTこの記事をかいた人

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石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2