【実話怪談】札幌怪奇譚【第7話:戦場から託されたバトン】



はじめに

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ここで取り扱う怪談は、オリジナル創作ではなく、あくまでも「実話」であることを前提としています。

「実話」というのは、語る本人が「実話だ」と主張する限りにおいてこれを定義することとします。

また、『札幌怪奇譚』は、読みやすさを追求するため、「実話」に基づきながら、著者によって文体・構成・演出の編集が加えられておりますのであしからず。

 

第7話:戦場から託されたバトン

(体験者Kさん 経営者 女性 38歳)

わたしは幼いときから学生時代までのあいだ、しばしば、怪現象を体験していました。

夜寝ていると金縛りになり、どこからともなく「ザッザッザッ」という足音が聞こえてくるんです。

足音の正体は兵隊の幽霊でした。その幽霊は、きまっていつも枕元までやって来て、わたしの顔を覗きみて消えていきました。

 

いつも同じ兵隊なんですよ。顔もはっきり憶えています。かなり若い人でした。

いったいなにが目的なのか、なにを訴えようとしているのかわからない。

それがもう怖くて怖くて……。

 

ところが大学生にもなると、その怪現象に遭わなくなり、だんだんとあの兵隊のことは忘れていきました。

 

やがて社会人になり、わたしは昔から関心をもっていた福祉の世界で働くことに。

その後紆余曲折あり、わたしは念願の独立。障がい者の就労支援事業をはじめました。

おかげさまで仕事は順調。多忙ですが幸せな日々をこうして送らせていただいています。経営者という不慣れな経験のなかで、大変なことはたくさんありました。もちろんいまでもそうです。しかし、福祉という大好きな仕事に携わっていることもあるのか、どんなに大変な目にあっても辛いと思ったことはいちどもありませんでした。

 

あるとき、わたしは出張で広島へ行きました。

無事に用件を済ませたあと、残りの時間を観光に使うことになったわたしは、あてもなくブラブラと現地をほっつき歩きました。

しかし、なぜだか「観光」の気分にはなれませんでした。なんだか、そわそわと変な胸騒ぎがしていたのです。

 

まるで、ほんとうに行くべき場所があるかのような予感がしていました。

 

気づけばわたしは、とある歴史資料館に足を踏み入れていました。

あまりこういったものに興味がなかったわたしは、普段ならぜったいに行かないような場所でした。

けれどそのときのわたしは、迷わず建物のなかに入ったのです。自分でもほんとうに不思議でした。

 

そこには郷土の歴史のほかに、太平洋戦争の資料がたくさんありました。

わたしはなにとはなしにそれをゆっくり順番に眺めていました。

 

すると、ある資料に目が釘付けになりました。

それは兵隊さんたちの集合写真。みなニコニコして楽し気な様子でした。

わたしはそのなかに、見覚えのある青年の顔をみつけてしまったんです。そうそれは、かつて枕元に立ち、ずっとわたしの顔を覗き見るあの兵隊の幽霊とそっくりな顔……。

 

ただ顔が似ているだけだよな、白黒写真だしね……そう思ったわたしは、この集合写真に写る兵隊さんの名前を展示されている資料で確認しました。

胸がドキリとしました。

わたしの苗字はけっこう珍しい部類なのですが、なんとその青年もまったく同じ苗字だったのです。

 

(そういえば、本州の親戚には戦地へ行った人がいるって話を聞いたことがある……)

 

わたしはいてもたってもいられなくなり、その名前をメモに控えると、すぐに資料館を飛び出しました。

そしてその足で現地の役所に行き、すぐに事実が判明しました。

間違いなくあの写真の兵隊さんはわたしの遠い親戚だったのです。

 

どうやらこの兵隊さんの妹にあたる方がまだご存命のようで、ここからちょっと離れたところに住んでいるということもわかりました。

ぜひとも会って話をしたかったわたしは、すぐにその場所へ向かいました。

 

……いま思えば、とんでもない行動力だったと思います。まるで自分が別人かのようでした。

 

わたしは無事、遠い親戚と会うことができました。快く出迎えてくれて、ホッとしました。

しばらく話をしていると、妹さんはふと訊ねました。

「ところであんた、いまどんな仕事をしているんだい」

福祉関係の仕事をしていると答えると、妹さんは急にボロボロと涙を流し始めました。

 

何事かと彼女の話に耳を傾けると、じつはお兄さんはかなり勉強のできる方で、「将来は障がいをもった人に勉強の楽しさを伝える仕事がしたい」という立派な夢を持っていたそうです。

しかしその夢を果たすことなく、そのまま戦場で帰らぬ人になってしまった……。

 

わたしはこれまでの怪現象にすべて納得がいきました。

枕元に立ってわたしの顔をのぞいていたあの兵隊さんは、もしかすると、わたしに夢を託そうとしていたのではないか、と。

”俺の夢を叶えてくれ……!”

 

そう考えた途端、わたしは胸が熱くなり、気づけば妹さんと一緒に涙を流していました。

 

わたしがこれまで福祉の仕事を楽しく元気にやってこれたのは、きっとお兄さんが見守ってくれているからなんだ。いや、そうに違ない。わたしの仕事は、お兄さんから託された夢だったんだ――。

夢を果たせず戦場で散っていったお兄さんの無念さを思うと、とめどなく涙があふれて止まりませんでした。

(お兄さん、わたしは必ずこの仕事を生涯をかけて全うしてみせます!どうか見守っていてください!)

 

わたしは、ますます仕事に誇りと使命感をもてるようになりました。

 

広島での出来事は、ほんとうに不思議の連続でした。

あのときのわたしの異常な行動力は、きっとあの兵隊さん――もとい”お兄さん”――がわたしを導いてくれたのかもしれません。そう思いたいですね。

先輩の経営者さんたちに「ご先祖様は大切にしなければならない」とよく言われていました。いまではその意味をはっきりと理解できます。

 

自分の仕事が先祖の人々と繋がっていて、どこかで見守ってくれている――それは、とても素敵なことなんですよね。

 

 

(第8話に続く……)



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ABOUTこの記事をかいた人

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石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2