【実話怪談】札幌怪奇譚【第4話:譜面台から……】



はじめに

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ここで取り扱う怪談は、オリジナル創作ではなく、あくまでも「実話」であることを前提としています。

「実話」というのは、語る本人が「実話だ」と主張する限りにおいてこれを定義することとします。

また、『札幌怪奇譚』は、読みやすさを追求するため、「実話」に基づきながら、著者によって文体・構成・演出の編集が加えられておりますのであしからず。

 

第4話:譜面台から……

(体験者I・Tさん フリーター 24歳)

これは、T区にあるT高校で僕が体験した話です。

学校の3階は、校舎のすぐそばに林があるせいで日当たりが悪くて、北側の廊下がいつも薄暗かったんです。

廊下の突き当りには、一般の生徒がほとんど立ち寄らない空き教室がありました。そこは、吹奏楽部の物置として使われており、コントラバスと木管低音楽器演奏者の放課後練習場として兼用していました。当時、僕はコントラバス担当だったので、頻繁に出入りしていました。

 

でも、ほんとうはあの教室に行くのはあまり気が進みませんでした。どんな日でも雰囲気がどんよりして陰気臭いのは我慢できるのですが、この部屋にまつわる「いわく」が恐ろしくて。

じつは、ここで練習しているファゴットの演奏者たちが、四年連続で足にケガをしていたんです。

前々から変な噂の絶えない教室でもありましたので、一人で練習しているときはとにかく嫌でたまりませんでしたね。まあ、場所が狭いので、ひとりで練習することのほうが多かったんですけど。

 

ある日、いつものように、あの空き教室でひとりで練習していました。コンクールが近かったということもあり、怖がっている余裕もなく、僕は夢中でコントラバスを弾いていました。

教室には自分以外に誰もいません。

だけど僕は、練習していくうちに、違和感を感じはじめていました。まるで、誰かに見られているような……そんな感覚でした。とはいっても、この部屋には自分だけしかないので、誰かに見られているなんてことはありえない。僕は理性的にその違和感を「気のせい」だと思い込むようにしました。

 

それでもやっぱり、誰かの視線が自分にそそがれている感覚を拭い去ることができませんでした。ああいうのって、本能なんでしょうか?

僕はコントラバスを弾きながら、その視線が間違いなく正面のほうからきていることを肌で理解しました。

正面とはつまり黒板側のほうです。そちらは現在、物置スペースになっていて、楽器や譜面台などがびっしり密集している状態になっています。だから当然、人なんているはずもないんです。

 

いちど考えると、気にならずにはいられなくなりました。依然として誰かに見られている違和感が続いています。だんだんと怖くなってきました。でも、気になる……。

演奏を止め、ついに僕は恐る恐る、手元の楽器から正面へと目線をあげてみました。

当然ですが、楽器と譜面台が雑然と置かれている光景が目に入りました。

 

やっぱり、誰もいないよな――。

ホッとため息を漏らしたその瞬間、僕は思わず「えっ?」と声を出してしまいました。

 

なんと、いくつもある譜面台のひとつから、僕のほうをじっと見る顔が、ひょっこりとのぞいていたのです!

しかも、譜面台の上ではなく、「真横」から顔の半分を出しているんです。ちょうど、目の下で顔が見切れていました。

もうわけがわかりませんでした。譜面台の真横から顔をのぞかせるということは、当然ですが、身体を宙に浮かせつつ横たわる姿勢にならなければ、けっしてありえない角度なわけです。

 

目元から半分しかみえていませんが、いまでもその顔立ちをはっきり覚えています。

とくに髪型に印象深さはありませんでしたが、眉毛がシュッと整っていて、当時の自分とちょうど同い年くらいの男子学生でした。

明らかに人間ではない。それはすぐに理解できましたが、このあまりの荒唐無稽な状況に、怖さを感じませんでした。ただただ、茫然とするばかりでした。

 

茫然とする僕と、僕のことをじっとのぞきみる「彼」は、ほんのちょっとのあいだ、見つめ合いました。

するとやがて、譜面台からこちらをみている「彼」は、にゅ~っとその顔を引っ込めたんです。

その顔をどこに引っ込めたかなんて僕にわかるはずもありませんが、とにかく、譜面台の後側に顔が消えていきました。

 

そこでようやく我にかえった僕は、いまさらになってゾッと背筋が冷たくなり、あわてて空き教室を飛び出しました。

あれから何度も空き教室には行きましたが、そういう体験はこれっきりでした。

あの男子学生はいったい誰だったのでしょう。歴代のファゴット演奏者が四年連続で足を怪我したことと、なにか関係があるのでしょうか?

 

 

(第5話に続く……)



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石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2