【実話怪談】札幌怪奇譚【第2話:先回りする街灯】

札幌 怪談 実話



 

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第一話「友人の失敗」

 

はじめに

 

ここで取り扱う怪談は、オリジナル創作ではなく、あくまでも「実話」であることを前提としています。

「実話」というのは、語る本人が「実話だ」と主張する限りにおいてこれを定義することとします。

また、『札幌怪奇譚』は、読みやすさを追求するため、「実話」に基づきながら、著者によって文体・構成・演出の編集が加えられておりますのであしからず。

 

第2話:先回りする街灯

(体験者Nさん 金融業 男性 二十八歳)

 

いまから七、八年くらいまえの話。深夜、大学の仲間とドライブがてらに、N区のとある心霊スポットに行ったんだ。札幌ではいわずと知れた、あの有名な「滝」にね。

ありがちな話だけど、「とりあえず肝試しでもするか」ってなったら、みんなあそこに行くじゃない? 俺たちもそんなノリだった。夜は最高に不気味で雰囲気は抜群だし、N区というだけあってちょいと車を走らせたらすぐに着く。しかも、「お手軽な心霊スポット」のわりに――こんな言い方は不謹慎かもしれないけどね――、そこそこヤバい場所だから、けっこうな確率で、なにかしらの「土産話」をもって帰ることができる。

そういうわけで、大学生のテンションで調子に乗っていた俺たちは、暇さえあれば、よくあの場所に足を運んでいた。だけど残念なことに、たいていの場合、現地には地元の連中とか肝試しに来た他のグループで賑わっていたから、とても雰囲気を味わうどころではなかった。なかには、「怖いんで一緒に廻りませんか?」と声をかけてくる人もいる。怖いのは当たり前だろうって言いたくもなる。必要以上にみんなでワイワイ心霊スポット回ったってなんの面白味もない。まあ、それはそれで楽しかったんだけどさ。なにしろ女の子と知り合いになれたりするもんね。悪くなかったよ。

だけどあるとき、めずらしく俺たち以外に「客」のいない日があった。滝入り口の駐車場は真っ暗。唯一の灯りは俺たちが乗ってきた車のライトだけだったからね。これがなんとも言いようのない心細さなんだ。

ふだんは賑わっているはずのこの場所にはいま、俺をふくめて五人。車から降りると、近くを流れる滝の音がすごく響いて聞こえた。さすがに不気味だった。この独特な雰囲気に気圧されたのか、あれだけ道中やかましかった仲間たちは、急にみんな喋らなくなった。反面、そのとき俺は、「今日こそはなにか起こるかも」なんてちょっと期待していた。この滝の「怖い話」はいつも人聞きするばかりだったから、いい加減、自分でもそういう体験をしてみたかったんだ。わかるでしょ?

だけどガッカリ、いざ「探検」を始めてみると、とくになにも起こりゃしない。駐車場から滝に降りて、暗い道を携帯のライトで照らして歩きながら、たまに何の気なしに写メを撮ってみたりするんだけど、真っ黒な写真が画面いっぱいに映ってそれで終わり。けっきょく「探検」といったって、しょせんはいつもの「お決まりのコース」をなぞるだけだった。

けど、「雰囲気」だけは最高だったから、それなりにみんな楽しむことができた。何事もなく駐車場に戻ると、「もう他にやることもないし、さっさと帰るか」って話になった。駐車場にポツンと止めてあった車に乗り込む。相変わらず、自分たち以外に人はいなかった。車を発進させると、いよいよみんなは緊張が解けたようで、来た時と同じように、またぞろやいのやいのと騒ぎ出した。

ところが、一人だけ様子のおかしいやつがいた。

ドライバーの加藤ってやつなんだけど、やつは、うつむき加減でハンドルを握っていたんだ。おいおい、危ないからやめろよなんて当然みんなは言う。そしたら加藤は、まるでなにかに怯えたように、「わかってる」って応えやがるんだ。

どうも加藤は、うつむいているというよりも、なにかから視線を逸らしているようにも見えた。そのとき俺は助手席に座っていたんだけど、だんだんと嫌な予感がしてきた。

滝の駐車場を出ると、そこから先は、しばらく住宅街が続く。深夜だから家の明かりもほとんどない。ポツリポツリと並ぶ街灯だけが頼りさ。それがまた不気味でね。設備が古いせいなのか、ところどころ、街灯が消えたり点いたりしているのもまた気持ち悪かった。あの一瞬だけ真っ暗になるのがたまらなく嫌~な感じなんだ。

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だけど、そう思っていたのも束の間だった。

「なにこれ、きもちわるい……

異変を目の当たりにした女の子のひとりが、静かに悲鳴を漏らした。

異変。そう、俺たちは、住宅街を突っ切っているうちに、おかしなことに気づいてしまったんだ。それは街灯の明滅の「仕方」だった。はじめはてっきり、街灯が不安定に点滅するのは故障のせいかと思っていたんだが、じつはそうじゃなかったんだよ。

街灯は、まるで俺たちの車を先回りするように点滅していたんだ。わかるか? 車が進むたびに、ちょうどその先にある街灯だけがストロボみたいに暗くなったり明るくなったりするんだ。通り過ぎれば、またもとの明かりに戻る。住宅街を抜けるまで、ずっとそれを繰り返していたんだ。俺たちはすごく動揺した。だけど車は直進するしかなかった。男連中は悲鳴こそあげなかったけど、生唾をのんでただ黙るしかなかった。

そしてドライバーの加藤は、この現象の原因がわかっているとでもいわんばかりに怯えきっていた。

ようやく人の賑わう大きな道路に出ると、誰が言い出すわけでもなく、「コンビニに行って一服しよう」ってことになった。コンビニの明かりが急に恋しくなったんだな。仲間の3人はさっさと車から降りた。トイレに行ったり、飲み物やお菓子を買ったり、タバコをふかしたりして、思い思いの行動をとっていた。

俺と加藤は車を降りなかった。加藤はあいかわらずなにも喋らない。車内は薄暗くてはっきりとはわからなかったけど、やつの顔色はどことなく悪そうにみえた。

俺はおそるおそる、あの滝を出るまでのあいだに、いったいなにがあったのか、おまえはなにかをみてしまったんじゃないかと聞いてみた。そしたらやつはゆっくりと顔をあげて答えた。

「滝の駐車場を出るとき、サイドミラー越しにはっきり目が合っちゃったんだよ」

「誰と?」

「ニコニコしながら手招きしている女と……

 

あの滝の駐車場には、でっかい慰霊碑があるだろ? 炭鉱で強制労働させられた朝鮮人の慰霊のために建てられたものらしんだが、加藤がみたっていう「手招きの女」は、真っ白い服をきて、その慰霊碑のそばに立っていたらしい。

 

滝に行ったとき、最初は「なにか起こってほしい」なんて期待していたけど、じっさいにその通りになってみると、たまったもんじゃないね。

あの街灯の不自然な点滅は、いま思うと、「二度と来るなよ」なんて意味をこめたパッシングだったのかもしれないな。

 

え、「また来いよ」だったらどうするだって? 怖いこと言わないでくれ。

 

 

(第3話に続く……



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石山 広尚(いしやま ひろなお) 1991年うまれ。 札幌在住のライター。 一時期は社会学の研究者を志していたが、ひょんなことから友人と同人誌をつくることになり、それがきっかけで「創作」の世界にどっぷりハマる。小説サークルを主宰し、「批評」の重要性を痛感する。 ・大学院時代の専門:思想史と社会学 ・好きな作家:H.G.ウェルズ、オー・ヘンリー、ポール・ギャリコ、スティーブン・キング ・好きな映画:ゴッドファーザー、第三の男、ターミネーター2